東京高等裁判所 昭和62年(ネ)2974号 判決 1988年7月13日
控訴人(原告) 恵通商事株式会社
右代表者代表取締役 河東栄
右訴訟代理人弁護士 岡田錫淵
同 吉永順作
同 岸上茂
被控訴人(被告) 吉田カツヱ
右訴訟代理人弁護士 鈴木弘喜
同 卜部忠史
主文
一、本件控訴を棄却する。
二、控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、控訴の趣旨
1. 原判決を取消す。
2. 被控訴人は控訴人に対し、金六五〇万円及びこれに対する昭和五九年三月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3. 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
4. 仮執行宣言
二、控訴の趣旨に対する答弁
主文第一項同旨
第二、当事者の主張及び証拠
左記に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、四枚目裏六行目の「占有権限」を「占有権原」と訂正する。)。
当審における当事者の主張及び認否
一、控訴人
1. 仮に、控訴人主張の沢田と被控訴人との間の金銭消費貸借契約が認められないとしても、被控訴人は沢田から金六五〇万円を受領し、これにより法律上の原因なくして利得を得、他方沢田は同額の損失を被ったのであるから、沢田は被控訴人に対し金六五〇万円の不当利得請求権を有する。よって、控訴人は、被控訴人に対し、沢田(相続人ら)の右不当利得請求権を代位行使し、不当利得金六五〇万円及びこれに対する昭和五九年三月一一日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2. 被控訴人の時効の抗弁に対し、再抗弁として次のとおり主張する。すなわち、原審において、本件は調停に付されたが、その調停期日において、被控訴人及び原審時の訴訟代理人は、控訴人に対し金六五〇万円の返還義務あることを認め、控訴人が本件土地建物を買い取るとの案の話合いが進行し、その必要上、被控訴人同意のもとに、本件土地建物の鑑定がなされた。そして、その鑑定費用は全額控訴人が負担したが、被控訴人が受領した金員を返還する前提で調停が進行し、被控訴人が右鑑定結果を基に、控訴人の請求金額を算出する手順になっていた。被控訴人が沢田より受領した金額を控訴人に支払うことを認めていたからこそ、鑑定費用を折半にすることなく、全額控訴人において負担したのである。以上の事情に照らして、被控訴人の時効の援用権は喪失したものである。
二、被控訴人
控訴人主張の一の1及び2の事実は否認する。
なお、当審で改めて貸金債権及び不当利得金請求について消滅時効を援用する。
理由
控訴人の本訴請求は、控訴人は沢田宣孝(昭和五七年一〇月一八日死亡)に対する土地建物売買代金返還請求権を有するところ、これに基づき、同人(相続人ら)の被控訴人に対して有する貸金債権、もし、貸金債権が認められないときは、不当利得金債権の代位行使として、被控訴人に対し、貸金又は不当利得金として金六五〇万円及びそれに対する遅延損害金の支払を求めるというにある。しかるところ、被控訴人は、抗弁として、右債権は金銭の授受があったと主張されている昭和四五年九月三日から起算して一〇年を経過した昭和五五年九月三日の経過により時効が完成し、被控訴人は右時効を援用すると主張する。
控訴人主張の右債権が貸金債権又は不当利得金債権のいずれであるにせよ、控訴人の主張によれば、右債権を行使することができた時はおそくとも、昭和四五年九月三日であるから、これから起算して一〇年を経過した昭和五五年九月三日をもって時効が完成したというべきであり、被控訴人が昭和六三年五月二五日の当審口頭弁論期日において、時効を援用したことは本件記録上明らかであるから、これにより右債権は消滅したものといわなければならない。
なお、時効の起算点について述べるのに、控訴人は、沢田は被控訴人に対する自己の債権は売買代金債権と考えていたが、別件訴訟においてその旨の主張が排斥されたため、自己の債権は貸金債権ないし不当利得金債権であることが判ったのであり、従って、時効の起算点は別件の最高裁判決言渡の日の翌日である昭和五八年一一月二六日であると解するようであるが、債権者が自己の債権の法律上の性質決定をどのように考えるかは債権者の自由であると同時に自己の責任においてなすべきことであり、性質決定を誤ったことをもって債権を行使するについて法律上の障害があったこととする訳には行かないことは明らかである(大審院昭和一二年(オ)第六七七号同年九月一七日判決民集一六巻二一号一四三五頁参照)。又、時効の起算日は、貸金債権であれ、不当利得金債権であれ、同一であると解すべきである。すなわち、いずれの債権も、金銭の授受にかかる事実関係は同一であり、これに基づく請求の権利関係の構成如何により権利を行使し得べき時が左右されるものではないからである。してみると、沢田(相続人ら)の被控訴人に対する請求権が貸金債権か不当利得金債権のいずれであるか、又、それらの成否の点について判断するまでもなく、被控訴人の時効の抗弁は理由がある。
控訴人は、再抗弁として、被控訴人の時効の援用権は喪失したと主張するが、控訴人が主張する調停の際の鑑定に関する事情をもってしては、直ちに被控訴人の時効の援用権が喪失したものと見ることはとうていできないので、再抗弁は理由がない。
してみると、控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないといわなければならない。
原判決の理由は以上の理由と異なるが、結論において相当であるから、民訴法三八四条二項により本件控訴を棄却する。
訴訟費用の負担につき、同法九五条八九条適用
(裁判長裁判官 武藤春光 裁判官 菅本宣太郎 秋山賢三)